職場からの帰り道に、ローソンが2つ、ファミマが1つ、セブンイレブンが3つある。
いつもはセブンかローソンに寄って帰るのだが、その日はたまたまなんとなくファミマに寄って帰ることにした。
買いたいものを手にとってレジに向かおうとしたところで、こんな声が聞こえた。
「ありがとうございませ~」
日本人である方(また、日本語を母語としている方)であればわかる通り、「ありがとうございませ」という日本語は日常的には使わない。
日常的に、どころか、人生で使うことがあるかどうかも微妙なところだろう。
というか、日本語としてあまり正しくないのではないか?とすら思える。
おそらく店員から発せられたのであろうその言葉に
「ん?」
とは思ったが、特に気にすることなくレジに商品を持っていく。
店員「○○円になります」
そして金を払う。
店を出ようと右を向く。
「ありがとうございませ~」
ここで注意しておきたいが、この言葉を発しているのは若い男性店員である。
メガネをかけており、痩せ型である。
外に出て、自転車の鍵を外していると、ファミマのドアが開き、中から会計を済ませた客がでてきた。
それと同時に聞こえてきたのは、レジに立っている若い男性店員の
「ありがとうございませ~」
であった。
さて、彼はなぜ「ありがとうございませ~」と言っていたのだろうか。
一般に、コンビニ店員は客が会計を済ませた後には「ありがとうございました」と言うことが多い。
一つの仮説としては、「ありがとうございました、またお越しくださいませ」をめちゃくちゃ早口で言っているということである。
その店員がアホみたいに早口であり、そのせいで「ありがとうござ(いました、またお越しくださ(クソ早口)(オタク))いませ」と聞こえているだけかもしれない。
しかし、いくらその店員が痩せた眼鏡の若い男性であるとはいえ、それだけでオタクであると決めつけるのは早計である。
実際、レジで会計時の会話を交わす際にはまったく早口ではなかった。
したがって、彼は早口で言ったわけではない(≒オタクではない)のだ。
つまり、次の仮説がおそらく正しいということになるだろう。
その仮説とは、マジで「ありがとうございませ」と言っている、ということだ。
「~してくださいませ」とは、「~してください(ますように)」という意味である。
(例:「またお越しくださいませ」=「またお越しください(ますように)」)
「ませ」をつけることで、「~してください」を丁寧にしているということだ。
つまり、「ありがとうございませ」とは、「ありがとうございますように」。
要するに、「感謝してください(ますように)」ということである。
多くのコンビニ店員は、客が去る際に「(このお店で買い物をしてくれて)ありがとうございます(感謝します)」と言う。
しかし、この店員は「(この店で買わせてあげたので)ありがとうございませ(感謝してください)」と言っているわけである。
なんと厚顔無恥な店員か!と思う方もいるかもしれない。
これは、彼から私達へのメッセージなのではないだろうか。
お客様は、神様だろうか?
店員は、客に感謝すべきだろうか?
もちろん、商売をしている以上、サービスを提供する側は提供される側に対して一定の礼儀を持って接するべきなのかもしれない。
では、提供される側は?…
彼は、「ありがとうございませ(感謝してくれよな)」の言葉を通してこの社会に対して何らかの警鐘を鳴らしていたに違いないのだ。
これからは、コンビニの店員に対して礼儀を持って接しているかどうか、考えて生きていこうと思った。
敬具。